家業を継いで早10年が過ぎようとしているが、最近つくづく思うのは、自分は商売が好きだということだ。
それは江戸時代以降、代々商売する家柄で生まれたが故の血のようなものなのかもしれないし、はっきりとしたことは分からないが、小さい頃より自宅で働いていた祖母や母親を間近で見て育っているということも、大きく影響しているだろう。
小学校一年生の文集では、将来の夢の欄にはっきりと『家業を継ぐ』と書いていた。
自営業で思うがままに仕事をしている父を見るのは、幼いながら何となく誇らしく思えたものだ。父は頑固で横柄で気性が激しかったりと、家族からすると歓迎できない面も多かったが、仕事に対する情熱は誰にも負けてなかった。
父は心臓の病が原因で49歳という若さで亡くなったが、亡くなる当日まで仕事のことを口にしていた。自分の寿命をすり減らしてでも仕事に注ぐ情熱は、まるで何かに急かされているようでもあった。
たまに父を思い出すときに思い浮かぶ姿は、亡くなる3ヶ月程前の、もうじき自分の生命が尽きようとしている中で、それでも必死で自分を奮い立たせている姿だ。テーブルの前で何かを呟くように気合を入れている姿を今でも鮮明に覚えている。
そうした父の生き方を間近で見てきたことは、少なからず自分自身の根幹となる価値感や考え方に大きな影響を及ぼしている気がする。
そんな父に、いつの日か再開する時に胸を張って会えるよう頑張っていきたいと思う。