
最近の相場を見ていると、「有事の金」というこれまでの常識が少し揺らいでいるように感じます。イランへの攻撃が始まって以降、地政学リスクが高まっているにもかかわらず、金が素直に買われる展開になっていないからです。
本来であれば、有事の際には株が売られ、その逃避先として金が買われる。いわゆる「有事の金」という流れが意識されます。しかし今回は、株が下がる局面で金も同時に売られる場面が見られました。
店頭の感覚としても、「金は上がるから持っておこう」というより、「利益が出ているうちに一度現金化しておこう」という動きが目立つ印象です。
この背景には、ここ数年で金の位置づけが変わってきたことがあります。以前は、金は有事の際に買われる“避難先”という性格が強いものでした。しかし現在は、機関投資家やファンドが戦略的にポートフォリオに組み込む資産になっています。
つまり、多くの投資家が平時から金を保有している状態です。
こうなると、株が下落した際に何が起きるか。含み益のある資産を一部売却して、下落した株の穴埋めや資金確保に充てる動きが出てきます。その対象として選ばれやすいのが、流動性が高く利益も乗りやすい金です。
結果として、株が下がると金も売られる。短期的には両者の動きに相関が出てくるわけです。
もちろん、長い目で見れば金が安全資産であるという性質は変わりません。ただ、初動の局面では「まず売られる資産」にもなり得る。ここが、従来の“有事の金”との違いでしょう。
相場は常に同じ動きをするわけではありませんが、少なくとも現状では、株と金が逆に動くとは限らない環境になっています。むしろ、ポートフォリオの一部として組み込まれているがゆえに、同じ方向に動く場面も増えてきたように感じます。
金は安全資産でありながら、同時に投資資産でもある。その二面性が、今回の値動きに表れているのかもしれません。
では、この先の中長期的な展望はどう考えればよいでしょうか。
短期的には株と金が同時に売られる場面もありますが、地政学リスクが長引く場合、次第に金本来の役割が意識されてくる可能性があります。市場が不安定な状態が続くと、現金の価値や通貨の信認に対する警戒も高まり、改めて金への資金シフトが起こりやすくなります。
また、中央銀行の動きも無視できません。ここ数年は各国の中央銀行による金の積み増しが続いており、これは短期の値動きとは別に、下値を支える要因になっています。こうした買いは投機ではなく、外貨準備の分散という性格が強いため、継続性があります。
さらに、インフレ環境が完全に収束したとは言い難い点も重要です。金は利息を生まない資産ですが、通貨価値の低下に対する防衛手段としては依然として有効です。金利動向によって上下はあっても、中長期では実物資産への需要は残りやすいと考えられます。
店頭の実感としても、急落局面では売却が増える一方で、押し目では現物を買い増す動きも確実に見られます。特に長期保有を前提とした購入は、以前よりも増えている印象です。
こうした点を踏まえると、短期では株との相関が強まる場面があっても、中長期では金の需要は引き続き底堅いと考えられます。「有事の金」が機能しなくなったというよりも、時間軸が少し長くなったと見る方が自然かもしれません。
短期では売られ、中期では戻り、長期では需要が積み上がる。現在の金市場は、そうした三層構造で動いているように感じます。